APJ「タッセルの美しき世界」出版されました

 

大変長らくお待たせいたしました。APJの笠井会長をはじめ認定講師による作品集が、先日(2019年10月30日)丸善出版から発売開始となりました。(Amazonの通信販売も可能です。)

ラナンレイタッセルとして掲載させていただくための作品作りは今から遡ること8ヶ月も前のことになります。
2月にモロッコへの再訪を果たし、いろんな砂漠を案内してもらい、その大自然の色の変化を肌で感じてからの取り掛かりとなりました。
作成にあたっては次のように構想を練りました。

「Memories of Morocco」

APJのタッセルを学び始めてから世界中のタッセルを見る事が楽しみの一つとなりました。
特にモロッコには幾度も足を運ぶなか、肌で感じたサハラの砂の輝きや太陽の色、可憐に咲く花々を織り交ぜたタッセルを作りたいと思うようになり、今ここに完成です。
グラデーションのリボン刺繍で現地の明るい印象を、房糸には刻々と変化を見せるサハラの砂色を、砂漠の地中深くにある水源はタッセルに抱かせる形で表現しました。


説明は端的にという文字枠もあるためうまく伝わるかどうか不安でしたが、ここで少し解説をしたいと思います。

まずモロッコへの渡航のきっかけとなったのは言うまでもなく、横浜象の鼻テラスで2018年1月28日に開催された「第1回モロッコマルシェ」への参加でした。何という巡り合わせかその日は私の誕生日でもありました。
当時、モロッコへの渡航は何年か前に計画倒れとなっていてなかなか行かれない遠い地となっていましたが、マルシェの主催者からのお誘いをいただき、二つ返事に「行きます!」と答えた私は、それ以後、半年に一度の割合で渡航を果たすことになりました。とても言葉では言い表せないほど魅力満載の国だったからです。

それはタッセルの資材調達も兼ねており、現地の産物が豊かな手芸材料としてとても興味深く、探して歩く楽しみも覚えました。
余談となりますが、現在はモロッコの伝統刺繍であるフェズ刺繍を習いはじめ、没頭している次第です。
いつかみなさまに作品をお披露目できる日が来るよう頑張りたいと思います。

作品製作にあたっての経過

さて、作品製作にあたっての経過をここでお話ししたいと思います。
まず糸の色を決定したのは砂漠の砂の色でした。

こんな夜空に見える砂山は小豆色といいますか、紫のような濃い色でした。


それから昼間の日差しの中で輝く砂は、同じような色がないためオレンジ色で対応しました。オレンジ色の房を作るのは全体の配色がとても難しく悩んだのは言うまでもありません。木玉への装飾をどうするかについてもいつものような糸巻きではなく、刺繍で対応したいと思いました。木玉からの展開図は難儀でした(苦笑)
シルクの刺繍リボンでイニシャルを、さらに木玉を4分割した形で四方に花や葉を施しました。


仕切りにはスパンコールで地下の水脈からじわじわと伝わって植物に行き渡る様を表現しています。

小花はサテンの平コード(ワイヤー入り)を使用し、一つずつねじりながら中央には小さなパールを通しています。幅のあるリボンにその小花を丁寧に留めながら徐々に埋め尽くして行きました。

これはモロッコ・マラケシュの街中に見られた、とても高い壁伝いに咲き乱れるブーゲンビリアやジャスミンの花をイメージしています。花色は何色もありました。

ブーゲンビリアは至る所に沢山咲いています。


また砂漠にはこんな花も咲いていて、生命力のたくましさを感じずにはいられません。この花を模した造花を一つのタッセル上部に再現すると共に、包みボタンに編み込んだ紫のチャームポイントとしてネック部分にも利用しています。出版された掲載写真にはこの砂漠に咲く花をフォトスタンドに入れたものと一緒に写っています。

地中深くにある水源は(砂漠には貴重ですが水もちゃんとあります)オランダの友人からの贈り物で、いつかタッセルの作品作りに役立てて欲しいとアンティークマーケットで見つけた3本の大中小と揃ったクリスタル様の飾りを使用しました。

このオランダの友人はとても残念なことに2019年3月にこの世を去りました…
その直後からの製作だったため、何とかこれを取り入れて天国の彼女に報告がしたいと強く思ってのことでした。


ついでに余談をいたしますが、
一番左にあるブルーの木玉のタッセルは、そのオランダの彼女の訃報を聞いた時に「祈りを込めて作成した」ものです。デルフトブルーが好きだったこと、オランダを愛して渡航25年あまり、オランダの素晴らしさを広く世界の人々に広めてくれた彼女に敬意を、オランダの色といえばオレンジというその組み合わせで作成した作品です。


私のタッセル自宅教室開講にあたって全面的に応援してくれたのは他ならぬ彼女でした。オランダの手芸店に一緒に行ってあれこれと買い物をしたり、彼女行きつけの手芸店に案内してもらったり、日曜マーケットに繰り出したりと、とても貴重な経験を積むことが出来ました。マーストリヒトのおしゃれなショップで購入したフォトスタンドも実はこのページに写っているものです。


私のタッセルの原点は実はオランダにありました。ということもあって、オレンジ色はモロッコの砂の色でもあり、私の原点でもあるオランダの色でもあり、だからこそこの難しい色を何とか作品に仕上げたいという気持ちにつながったのです。

今回の製作にあたって使用した主な資材

丸木玉数種、APJオリジナル木玉、ロープ、ワイヤー、房糸
サテンコード、アーティフィシャルフラワー、コットン糸、ボタン
極小パール、ワイヤー入りサテンコード、波形リボン、刺繍シルクリボン、リネン布、スパンコール等

作品周辺に飾ったものはモロッコ現地で入手した砂漠の薔薇やランプ、ラクダの置物は遊牧民の手作り(人形の乗っている方)
観光客向けの現地の手作りを仕事にされているもの(手前のカラフルなラクダ)となります。
手前のラクダには一部、小さな小さなタッセルを付け足してあります。

遊牧民の子供たちはお母さんと一緒にこんなラクダの人形を作って(作る布地は着古した衣類などで、決して無駄にはしないという考えかたも実践力も本当に絶賛したいところです)遊んで育つのでしょう。

豊かなものに囲まれて暮らしている私たちは見習うべき点が沢山あるように感じます。
そんな訳で私のモロッコ訪問は2年の間に4回という自分でも驚くほどの熱の入れようとなりました。その集大成のような今回の作品は、まさにモロッコに対する思いを表現出来たと思います。

ぜひ、APJ認定講師のそれぞれの思いのたけを表された作品をこの作品集でご覧いただければ幸いです。